スウェーデンからはカール16世グスタフ国王陛下がソニーに来臨されたこともある。
Iさんが以前、これらの国々を訪問したとき以来のご縁らしい。
特に当時のソ連は、ゴルバチョフ政権下でいわゆるペレストロイカ(改革)を進めていたこともあって、日本の民間企業との交流には熱心だったのだろう。
私はそれまで、ロシア人と話をしたことはなかったが、話してみると意外に(というと失礼かな)社交的な温かい感じのする人が多いという印象を抱いた。
さて、そのソ連の在日大使館の某公使が代表団来訪の打ち合わせに来たときの話。
彼が会社の前に路上駐車してきたようだったので、「よろしかったら当社の駐車場に車を入れてはどうですか…」と私が言ったところ、相手はウインクしながら茶目っ気たっぷりにこう言ったものだ。
「こちらはブルーナンバー(外交官用ナンバープレート。
つまり、外交官の不逮捕特権があるから駐車違反をしてもつかまらない)だから、大丈夫だよ!」ロシア人の話が出たところで人名のことについて少し書いておくと、手紙の宛先を書くときにふと疑問に思ったことがある。
ロシア人の男性名の中央にある「…ツチ」というのは何だろうか。
たとえば、その当時のソ連の大統領はミハイルーセルゲービッチーゴルバチョフ(MikhailSergeevichGorbachev)だし、かつてのロシア大統領はボリスーニコラエビッチーエリツイン(BorisNikolaevichYeltsin)だ。
社内にいるロシア語のできる人に聞いたところ、このミドルネームのようなものは「父称」とかいって、父親の名前に「ピッチ」をつけたものらしい。
つまり「セルゲーピッチ」なら「セルゲーの息子」という意味だそうだ。
女性の場合は、父親の名前に「ブナ」がつく。
「イワンの息子」ならイワーノビッチ、「イワyの娘」ならイワーノブナとなるらしい。
なお、ロシア人同士の親しい間柄では、ファーストネームに父称をつけてフユイルーセルゲービッチ」などと呼び合うそうだ(これはわが愛読書の『ゴルゴ13』のどこかにも書いてあった)。
それから、インドネシアの人で国連大学の学長を務めたスジャトモコという方が亡くなったときに弔電を出そうとして、「はて、フルネームは何というのだろう〜」と疑問に思ったことがある。
紳士録(WhosWho)で調べても、[スジャトモコ]としか書いていない。
もしかして「スジャートモコ」さんか〜などと思いながら、これも人伝に聞いた話では、インドネシアなど東南アジアのいくつかの国々には、姓がなくて名前だけの人がいるらしい。
このように、いざ文書にすると意外なところに気がつくものだが、手紙の宛名や会合の席などで相手の名前を間違えると、失礼なことにもなりかねない。
相手に秘書やスタッフがいる場合は、あらかじめ「念のため、正しいお名前のつづり(または発音)を確認させていただきたいのですが」などと言って教えておいてもらうのが良い。
これはけっして失礼にはあたらない。
むしろ、重要な席で相手の名前を間違えて呼ぶようなことがあったら、そのほうがよっぽど大変なことになる。
「工場が見たい」と言われても…ソニーはエレクトロニクス技術の最先端を行く会社だから当然かもしれないが、「Iさんにお目にかかるときに、工場を見学したい」と言ってくるお客様も多かった。
しかし、工場見学の手配はそう容易ではなかった。
工場側でも、受け入れの準備に時間と人手がかかる。
それに、今日のソニーのエ湯は地方や海外に分散しているから、東京に来たついでにちょっと見学できる工場など、実はあまりなかった。
そこで、Iさんなどが工場見学の代わりによく使った手は、本社の一角にある展示スペースにお客様を案内し、そこで市販されている数々のソニー製品や時代の最先端を行く製品、または昔懐かしい歴史的な製品を見せながら話をする、というものであった。
この方法は実に効果的だった。
特にメーカーの仕事にあまり詳しくないお客様の場合、よくわからない製造装置を難しい顔をしながら見て回るよりも、ソニー製品の完成品などを実際に手にとって見るほうがわかりやすいし、ずっと楽しんでもらえる。
その後、お客様がIさんと懇談してから本社にあるこのような展示室にご案内するというのが、VIPによるソニー本社訪問の「定番メニュー」のようになった。
「メディアワールド」と名付けられた放送機器や業務用機器の展示室には金子さんという親切な課長がいて、最先端技術には無知だった私に代わってお客様にあれこれと説明してくれた。
金子さんは、HDTV(高品位テレビ、いわゆる「ハイビジョン」)や静止画ビデオカメラの画像合成装置(いわゆる「プリクラ」のようなもの)、放送局用のビデオ編集装置などのハイテク装置を駆使して、お客様を楽しませる名人だった。
英語での展示品の説明も実に巧みだし、面白い各種の素材を使ったデモ(実演)も交えながら話を進めるので、聞き手を飽きさせない。
Kさんの巧みなデモの進め方は、若手社員の私にとっては本当に良い勉強になった。
このほかにも、ソニーは実に話題の豊富な会社だった。
ある日、海外からのお客様を会社に案内したとき、たまたまIさん自身の手による「ランドセル贈呈式」が催されていた。
これは、翌年に小学校に入る従業員の子女全員にランドセルを手渡しでプレゼントするという、ソニーの伝統行事である。
私はそのお客様を会場に連れていって、「これが従業員を家族のように大切にするソニーという会社のひとつの姿です」などと得意気に説明したものだ。
ソニーは、もちろん技術力や商品企画の面でも卓越した会社だったが、それだけでなく、「お客様を楽しませよう」という考え方において一歩進んでいたように思う。
私自身は見る機会を逸したが、1985年に筑波で開催された科学博覧会でソニーが出品したのは、こまごまとした展示品の数々ではなくて、「ジヤンボトロン」という縦横数十メートルの巨大なテレビ画面だった。
時折、会場に来ていた人にズームインしては話題を呼んだそうで、これもIさんお気に入りのプロジェクトだったらしい。
お客様に楽しんでいただくというソニーの企業姿勢がここにも現れていたようだ。
なお、この手のイベント会場用の大画面は、それ以降、他のメーカーも次々と商品化して、今では野球場や競馬場などでごく普通に見られるようになっている。
ソニー本社のショールームは一般には非公開だが、これと同様の製品展示は東京・銀座のソニービルや、大阪・心斎橋のソニータワーでも見ることができる。
実は、こういった一般公開のショールームは、前述した本社の「メディアワールド」よりもはるかに前に作られたものだ。
ソニーがエクセレントカンパニーと呼ばれた所以は、もしかしたらこんなところにもあるのかもしれない。
VIP歓迎準備チーム結成英語屋の仕事にもかなり慣れてきた1989年の秋のこと。
わが国の外務省から「タイ国のガラヤユーワッタナ王女殿下が、来日する機会にIさんに会いたいとおっしやっている」という打診が来た。
なんでも教育問題に深い関心を持っておられる王女が、タイ語でも出版されているというIさんの幼児教育論を読んで興味を持たれたらしい。
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